最近、働き方の多様化やダイバーシティの推進に伴い、働きやすい職場環境の構築への関心が高まっています。これに伴い、職場ハラスメントに対する厳しい視線も増加しています。2020年には改正パワハラ防止法が施行され、2022年からはすべての企業にハラスメント防止措置の実施が義務付けられました。
ハラスメントについて
ハラスメントとは、他人に不愉快感や脅迫感を与える、または尊厳を侵害する言動や行動を指します。この概念は「いじめ」や「嫌がらせ」と同等で、意図的な傷害や悪意がなくても、相手が不快に感じる場合ハラスメントになります。職場ハラスメントは、厚生労働省により労働者の就業環境を害する言動と定義されており、これには上司や同僚の発言による身体的、精神的苦痛や仕事能力の低下が含まれます。これらはハラスメントと認識される可能性が高い重要な問題です。実際、厚生労働省のデータによると、令和4年度の「いじめ」や「嫌がらせ」に関する相談は69,932件で、全体の22.1%を占め、これは個別労働紛争相談の中で最も高い割合です。約31%の労働者が過去3年間にパワーハラスメントを経験していると答えています。しかし、企業側ではハラスメントの判断が難しく、約65%の企業がその判断に困っていると回答し、約31%がハラスメントの発生状況を把握するのが困難であると述べています。
ハラスメントの種類
最近のハラスメントに対する関心の高まりに伴い、以前はハラスメントとは明確に定義されなかった言動が新たに言語化され、ハラスメントと認識されるようになりました。これにより、「これもハラスメントではないか」という考え方が生まれ、ハラスメントの種類が細分化されています。
パワーハラスメント(パワハラ)
パワーハラスメント(パワハラ)とは、職場で権力を持つ者が、業務範囲を超えて行う言動によって、従業員の就業環境に損害を与える行為です。通常、上司による部下へのパワハラが最も認識されやすいですが、組織内での立場が不利または弱い者への言動もパワハラと見なされる場合があります。たとえば、新しく就任した上司に対して、情報が不足していることを理由に行う攻撃的な言動もパワハラとされています。
パワハラは増加傾向
職場でのパワーハラスメント(パワハラ)は、社会的に重大な問題として認識されています。パワハラに関する労働相談は年々増加傾向にあり、2021年の経団連の調査では、44%の企業がパワハラの相談件数が「増加した」と報告しています。この文脈で、人事部門が特に注意を払うべきパワハラの問題に焦点を当てて説明します。
パワハラを定義する3つの要素
厚生労働省の雇用環境・均等局が作成したパワーハラスメント防止対策検討会の報告書では、パワハラの定義を以下の3つの要素で構成しています。まず、優越的な関係に基づく行為、次に業務の正当な範囲を超える行為、そして身体的または精神的苦痛を与える、あるいは就業環境を悪化させる行為です。この定義は、上司と部下のような明確な階層関係だけでなく、組織内での不利や弱い立場にある人への言動も含まれます。例えば、新たに異動してきた上司がチームのルールや状況を十分に理解していない状態での攻撃的な言動もパワハラとされます。
パワハラ6類型
厚生労働省では、主なパワハラを6つに分類。「パワハラ6類型」としてまとめています。
・身体的な攻撃:叩く・殴る・蹴るなどの暴行を受ける、ケガをさせられる等
・精神的な攻撃:他の従業員の前で執拗に怒られる、侮辱される、悪口を言われる等
・人間関係からの切り離し:職場の人間から無視される、自分だけ飲み会に誘われない等
・過大な要求:本人の能力以上のことを求められる等
・過小な要求:本人の能力と比べて明らかに簡単な仕事をさせられる等
・個の侵害:プライベートについてしつこく聞かれる等
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セクシュアルハラスメント(セクハラ)
セクシュアルハラスメント(セクハラ)とは、職場での性的な発言や行動が、従業員の労働環境や条件を悪化させることを指します。具体的な例として、無理由で異性の体に触れる行為、不適切な恋愛や性の話題の提起、性的な噂の流布などが含まれます。セクハラは男性による女性へのものだけでなく、女性から男性へ、または同性間でのセクハラもあります。
マタニティハラスメント(マタハラ)/パタニティハラスメント(パタハラ)
マタニティハラスメント(マタハラ)とは、妊娠中や出産前後の女性に対する嫌がらせのことで、産休の取得相談時に退職を勧められる、妊娠を非難の理由とするなどの事例が挙げられます。対照的に、男性が育児休業を申請した際の嫌がらせはパタニティハラスメント(パタハラ)と称されます。法的な整備、特に育児介護休業法の改正により、男性の育休取得がしやすくなっている一方で、妊娠や育児をする従業員に対する厳しい扱いはまだ存在していると言われています。
モラルハラスメント(モラハラ)
職場におけるモラルハラスメント(モラハラ)は、従業員の人格や尊厳を傷つけ、精神的苦痛を与える行為を指します。これには、公の場での過剰な叱責、誹謗中傷や陰口、無視や舌打ちなどが含まれますが、物理的暴力は含まれません。
ロジカルハラスメント(ロジハラ)
ロジカルハラスメント(ロジハラ)は、正当な理論を使って他人を圧迫し、不快にさせる行為です。論理的な説明や作業手順自体は問題ないものの、相手を不敬に扱ったり、侮辱するような言葉が含まれる場合、ロジハラと見なされることがあります。自分が絶対に正しいと信じる強い信念を持つ人は、特に他人の感情を考慮するのが難しく、ロジハラを引き起こすリスクがあるため、注意が必要です。
時短ハラスメント(ジタハラ)
時短ハラスメント(ジタハラ)は、業務の量や流れを変更せずに勤務時間を減らすことで、従業員に過度な負担を課す行為です。働き方改革により長時間労働を減らす取り組みが行われているものの、業務量が同じで労働時間が短くなると、従業員は無報酬の残業や家での追加業務を強いられることになります。これは表面的には労働時間の削減に見えますが、実際には従業員の身体的および精神的な負荷を増加させます。また、無報酬の残業は適切な報酬が支払われないだけでなく、法律違反でもあるため、問題とされています。
エイジハラスメント(エイハラ)
エイジハラスメント(エイハラ)は、年齢を根拠にして他人を批判したり、侮辱したりする行為です。例えば、年上の社員が若い社員に「若いんだからこれくらいはできるはずだ」と過度な仕事を押し付ける場合や、若い社員が年長の社員を「こんな簡単な仕事もできないとは」と馬鹿にするような発言も、エイハラにあたります。
ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)
ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)は、性別に基づく差別や嫌がらせの行為を指します。これはセクシュアルハラスメント(セクハラ)とは異なり、セクハラが身体的特徴に関する性的嫌がらせであるのに対し、ジェンハラは「男性らしさ」や「女性らしさ」などの社会的性差に基づくハラスメントです。例えば、特定の業務を性別によって限定して割り当てる行為がこれに該当します。さらに、LGBTQに関する差別もジェンハラの範疇に含まれます。
リモートハラスメント(リモハラ)
リモートハラスメント(リモハラ)は、遠隔勤務環境で発生するハラスメントを指します。これには「不必要に頻繁な進捗報告の要求」や「一時的な連絡不通を理由にサボりだと決めつけて叱る」など、過剰な監視や誤った前提に基づく叱責が含まれます。
ソーシャルハラスメント(ソーハラ)
ソーシャルハラスメント(ソーハラ)は、SNSを介した新しいタイプのハラスメントで、SNS上で繋がっている従業員間で起こるトラブルです。これには、SNSでのフォローの強要、リアクションの過剰な要求、しつこい個別メッセージの送信などが含まれます。さらに、SNSの投稿や私的なコミュニケーションを職場で共有したり話題にする行為も、プライバシー侵害とみなされソーハラとされることがあります。
スモークハラスメント(スモハラ)
スモークハラスメント(スモハラ)は、非喫煙者に健康上の害や不快感を引き起こす嫌がらせを指します。これには、非喫煙者のそばで無断でタバコを吸う行為や、非喫煙者に対して喫煙を強いるような行動が含まれます。
スメルハラスメント(スメハラ)/音ハラスメント(音ハラ)
スメルハラスメント(スメハラ)は、強い口臭や体臭、香水の香り、柔軟剤の匂いなどが他人に不快感を与える場合に該当するニオイに関するハラスメントです。一方で、音ハラスメント(音ハラ)は、周りの人に不快感を与えるような音によるハラスメントを指し、大声での会話や、引き出しやドアを強く閉めることによる大きな音が含まれます。音ハラの場合、騒音を出している本人がその行為に無自覚であることもよくあります。
ハラスメントハラスメント(ハラハラ)
ハラスメントハラスメント(ハラハラ)は、実際は適切な業務指導にも関わらず、それをハラスメントと主張する行為を指します。この状況は、指導を受ける側の被害者意識が強い場合や、指導とハラスメントの違いを理解していない場合に生じることがあります。ハラハラは管理職にとって懸念材料となり、指導がハラスメントと誤解されるリスクがあると、コミュニケーションの問題が起きる恐れがあります。そのため、企業は部下への指導やアドバイスの適切な範囲を明確にすることが勧められます。
職場ハラスメントが発生する原因・背景
ハラスメント問題に対する従業員の意識の低さは主な要因の一つです。多くの従業員は「どのような行動がハラスメントに該当するか」を理解していないため、知らず知らずのうちにハラスメント行為をしてしまう可能性があります。たとえハラスメントの定義や例を知っていたとしても、自分の部下や新入社員に対する誤った先入観により、ハラスメントを引き起こすことがあります。無意識のハラスメントの背景には、「アンコンシャス・バイアス」、つまり無意識の偏見があります。この偏見は、個人の先入観や固定観念から生じ、相手が不快に感じる可能性があるにもかかわらず、「良かれ」と思って行う発言がハラスメントと受け取られることがあります。このため、誰もが無意識の偏見の存在を理解し、対処することが重要です。
心理的安全性の低い環境
心理的安全性は、エイミー・エドモンソンによると「リスクを伴う行動をとっても安心できるという共通の信念がチーム内で存在する状態」を指します。このような職場では、上司や先輩の反応を恐れずにミスを報告したり、疑問を気軽に質問できるといった特徴が見られます。一方、ハラスメントが存在する職場では、心理的安全性が低いことが多いです。「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、ハラスメントの経験者は「上司と部下のコミュニケーションの不足」を特に問題視していました。さらに、「残業が多い」「休暇取得が困難」「失敗に対する容認度が低い」「業績の低下」「ハラスメント防止規定の不在」といった要因も挙げられています。これらの点から、良好な人間関係がない職場ではハラスメントが発生しやすく、恒常化する傾向があると考えられます。
ハラスメントを受けた場合の対処法
証拠を残す
ハラスメントを受けた場合、どの様な被害にあったかが重要になります。客観的な証拠(録音・証言)等は、どの様な場合にも役に立ちます。先ずは落ち着いて事実関係を整理する様にしてください。いつ、どこで、誰に、何をされたか、目撃者(証言者)は居たか等、詳細に記録を残す様にしてください。
周囲に相談する
ハラスメント問題は我慢すると悪化する可能性があるため、一人で抱え込まず、同僚や上司に相談することが重要です。この様な行動により、加害者が自身の行動を自覚し、問題の解決につながることがあります。
会社の窓口や人事担当者に相談する
上司に相談できない場合は、人事部や社内の相談窓口を利用しましょう。組織は、相談者が不利益を受けないようプライバシー保護に配慮する責任があります。
外部に相談する
社内で解決が難しい場合、全国の労働局や労働基準監督署に設置されている総合労働相談コーナーを利用するのがおすすめです。これらの窓口は無料で相談を受け付けており、電話での相談も可能です。
弁護士に相談する
外部機関に相談しても解決しない場合は弁護士に相談するのも一つの方法です。
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転職する
パワハラが発生する様な会社は、会社の考え方自体も古く、パワハラの認識が無い会社もあります。このため働く環境として適していない可能性があります。ハラスメントをやめさせる行動と並行して転職活動を行うのがおすすめです。
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まとめ
職場ハラスメントの種類は多岐にわたり、その発生件数は年々増加しています。ハラスメントに対処しない場合、従業員の精神的健康が悪化したり、退職につながったりすることがあり、最悪のケースでは訴訟リスクが生じ、企業の評判を損なう恐れもあります。ハラスメントは明らかになりにくい特性がありますので、職場内でのハラスメントの兆候や現状を知るためには調査が有効です。また、従業員がハラスメントに関する正確な理解を持つために研修を実施し、企業全体でハラスメント防止に取り組むことが重要です。